郵便事業株式会社(旧郵政省)では、1999年からDTPを導入し、切手デザインの効率化を図った。そこで活躍しているのが他ならぬ Intuos3 をはじめとしたワコムのペンタブレット。切手デザイナーたちがペンタブレットを駆使し「日本文化の小さなキャンバス」を前に、今日も筆を走らせている。
- Intuos3
- 1999年〜
- 膨大に増えた制作業務に対応するためにデジタルワークフローを導入その際にMacとともにペンタブレットを導入した。
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インターネットや携帯電話が普及しメールが普及した今でも、ぬくもりの感じられる手書きの手紙や葉書は健在だ。むしろ、メールが普及した現在だからこそ、手紙や葉書をもらうと喜びもひとしおだ。 ところでその切手のデザインが、毎年スゴイ勢いで増えていることをご存じだろうか。「切手を買うといつも同じようなデザインだなぁ」、なんて言っている人は、ぜひとも改めて郵便局に足を運んでほしい。実は、かなり頻繁に新しいデザインの切手が発行されている。ちなみにコンビニなどでも買える通常の切手は「普通切手」と呼び、記念切手やシリーズものの切手は「特殊切手」と呼んでいる。スゴイ勢いで登場しているのはその「特殊切手」に分類されるものだ。
切手や葉書を制作・販売するのは、日本郵政グループの郵便事業株式会社。その本社は東京都千代田区霞が関にある。
ちなみに平成20年の1月から7月までに15種類(15テーマ)もの切手が発行されている。そしてそれらの切手はシートになっていて、たとえば10枚/1 シートの80円切手(計800円)の場合は、同じデザインではなく、1枚ずつデザインが異なっているもの(「はろうきてぃ」や「日中平和友好条約30周年記念」など)も多いし、また中には2枚並べると絵が完成するといったものもある(「日本ブラジル交流年」「ふるさと切手/国土緑化」など)。1枚の切手のデザインだけでなく、見せ方や使い方にも一工夫があり楽しませてくれるものも多い。切手のデザインは進化しているのだ。
もともと「月に雁」とか「見返り美人」に代表されるようなレアものの切手を収集する人はいるが、日本の新旧の文化を楽しく見せる最近の切手は、マニアならずとも、ぜひとも手に入れたいと思うシリーズが目白押しだ。たとえば、平成20年度発行のものを見てみると、上に挙げた以外に「アニメ・ヒーロー・ヒロインシリーズ/まんが日本昔話」「国際文通グリーティング(赤毛のアン)」「北海道洞爺湖サミット記念」などがあり、いずれも緻密で大胆で秀逸なイラストやデザイン、写真が特徴的。ミニギャラリーを見ているようで、切手を使うのが惜しくなるような見事な出来映えばかりである。
昨今はメールが多く、手紙を書いたり受け取ったりする機会は減ってはいるが、改めて切手の世界を覗くと新鮮な驚きを感じるに違いない。子どもたちから大人まで、いろんな世代、いろんな人が楽しめるさまざまなシリーズがあって、切手はまさに「日本文化を現す小さなキャンバス」だ。
技芸官時代から数えて切手デザイン歴30年以上いう森田基治担当部長。
Macintoshとペンタブレットの導入に積極的だった兼松史晃課長
よく見かけるお馴染みのこの切手デザインは50円の普通切手。非常に緻密で繊細な描写が美しい。実は森田部長による肉筆のデザイン。
そんな、切手をデザインするのは日本郵便株式会社の切手・葉書部に属する社員だ。公社化される前の郵政省時代には「技芸官」と呼ばれたが、現在は「切手デザイナー」と呼ぶそう。そして彼らにとって欠かせないのがワコムのペンタブレット、Intuosだ。現在8人いるデザイナーすべてがMacintoshと IntuosでDTPデザインを行っている。その現場におじゃまして、森田基治担当部長、兼松史晃課長をはじめ、デザイナーの皆さんにお話を伺った。
「南極地域観測事業開始50周年」の記念切手。裏面が「シール式(左)」のものと「のり式(右)」の2つが発売された。
「南極地域観測事業開始50周年」を制作した切手デザイナーの星山理佳さん。これらは intuos3とAdobe Illustratorで制作された。モニタに写っているのはその拡大画面。
「DTPの導入は1999年。それまでは肉筆が基本でしたが、平成11年8月から『20世紀デザイン切手シリーズ』を17ヶ月連続で毎月発行することになったのです。しかし作業量が膨大に増えてとても肉筆では追いつかないと。それでMacintoshとArtPad(Intuos の前身)を導入したのです。今は Intuos2 と Intuos3 ですが、もうずいぶん長いことペンタブレットを使っていますね。ちなみにアプリケーションはAdobe PhotoshopとAdobe Illustratorです(兼松氏)」。 …ということは、私たちはすでに10年近く、ワコムのペンタブレットによって制作された切手を見てきていることになる。切手のデザインというと、手描きの味わいが残っていて、デジタル制作されたようには見えないが、今ではデジタルでの制作の割合が多い。デジタルらしくないのは、やはりペンで描くペンタブレットの存在も大きいはずだ。
切手デザイナーの皆さんは、切手だけでなく全国の郵便局の消印や各種葉書のデザインも行っている。写真は消印のデザインとそれを制作した切手デザイナーの佐久間恵子さん。
ところで、普段何気なく使ってる切手だが「ご存じの通り切手は有価証券です。そのため唯一無二の偽造されにくい高度なデザインが必要です。その上、公序良俗に反しない内容で、日本の文化を象徴するもの。そういったことが切手に求められます(森田氏)」という。そのような要求を肉筆でこなしてきた切手デザイナーにとって、DTPへの移行に違和感はなかったのだろうか。 「DTPの導入時は、とにかく手描きでできる作業量ではなかったのです。当初こそ操作について外部の人にレクチャーを受けましたが、ペンタブレットはほとんど手描きの延長という感じでスムーズに移行できましたね。ペンタブレットがあったからこそ、17ヶ月連続でシリーズものを発行し続けることができた、といっても過言ではないでしょう(兼松氏)」。
一方でデジタルだと何となく複製が容易という心配もあるが、データ管理はしっかりしているし、なにしろあの小さな切手1枚のデータ容量がものによっては 200MBもあるのだというから驚きだ。もちろんレイヤーを重ねてのことだが、200MBもの容量は、それだけ綿密なデザインが行われているという証拠。ちなみに切手をデザインする際の画像解像度は600pixel/cm、dpiに直すと1524dpiというから、一般の印刷物(300〜400dpi)をはるかに超える緻密なデータが作られていることになる。
切手のデザインプロセスだが、写真を基にする際も、また作家の作品を基にする場合でも、切手デザイナーが切手用に新たに調整する。小さな切手という世界の中で最大限にその絵やシーンを表現するためだという。その際には、「たとえば、輪郭線などを太くしたり逆にとってしまったり、メリハリを出したり出さなかったり(切手デザイナー・玉木明氏)」と、小さな切手ならではの流儀でデザインがなされる。
浮世絵を元にした「国際文通週間」記念切手デザインをしたのは、切手デザイナーの玉木明さん。DTPとペンタブレットの導入で、格段に仕事の効率が上がり、デザインのバリエーションも増えたという。
600pixel/cmという高精細な画像のため微細な作業が必要だが、ペン感覚でポイントできるIntuosなら細かな部分の修整もたやすい。
もちろん、Intuosをはじめとするデジタルツールのおかげで、制作効率も格段に上がった。「肉筆で描いていた頃はカンプにはせいぜい3パターンくらいしか出せませんでした。今は30パターンくらい出すのも容易です。それも高い精度で制作できますから、より完成版に近いイメージを確認することができます(玉木氏)」という。
ところで、切手デザイナーの仕事はデザインだけではない。「企画を立ち上げ、各省庁と連絡を取り、外部作家を使う場合の交渉や、あるいは取材や撮影まですべてに関わります。いわば切手のデザイナー兼プロデューサー(兼松氏)」。それゆえ、切手デザイナーが担当するそれぞれの切手への思い入れも相当なもの。その思いと感性を受け止めるには、手になじむツールが必要だ。
「もはやIntuosなしでは仕事ができません」と切手デザイナーの皆さんは口を揃える。そして皆さんの机には当たり前のようにIntuosが置かれている。そんな風景を見ていると、Intuosは切手デザインにとって欠かせないツールであると同時に、切手という日本の文化を支えるツールなのだと思えてくる。
日本郵便のホームページでは、最新の特殊切手を始め、これまで発売されてきた多くの切手のデザインを見ることができる。まさに「日本文化の小さなキャンバス」。それをIntuosはじめワコムのペンタブレットが影で支えている。
郵便事業株式会社
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